ブラジルのインディペンデントアニメ界の新鋭アレ・アブレウ監督による長編アニメーション映画。一切のセリフもテロップも排して描かれるのは、出稼ぎに出た父親を探して広大な世界を旅する少年の姿。そしてそこに込められたのは社会・政治・環境・経済といった世界が抱える問題である。長い独裁政権を経験したブラジルの歴史を感じさせる作品でありながら、言語の壁を超越した表現と高い芸術性により世界中で評価された。
2014年アヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル(最高賞)と観客賞を同時受賞し、これまで44の賞を受賞した。また、南米勢として初めて本年度のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされており、その結果が期待される。
予告編だけでも見てみると、これまでにない斬新な世界観を持った作品であることがわかる。
- 製作:2013年,ブラジル
- 日本公開:2016年3月19日
- 上映時間:80分
- 原題:『O Menino e o Mundo』
Contents
予告
あらすじ
少年クーカは両親と3人で幸せに暮らしていた。しかしある日、父が大都会に出稼ぎに出るため列車に乗ってどこかへ行ってしまった。
「お父さんを見つけて、家に連れて帰るのだ」
少年クーカは未知の世界へ父を探す旅に出ることを決意する。そんな少年クーカを待ち受けていた世界は、過酷な労働が強いられる農村や、きらびやかだが虚飾に満ちた暮らしがはびこり、独裁政権が戦争を画策する国際都市だった。それでも、少年クーカは旅先で出会う様々な人々との交流と、かつて父親がフルートで奏でた楽しいメロディの記憶を頼りに、前へ前へと進んで行く。
驚きと発見に満ちた少年クーカの旅の終着点は……
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映画を見る前に知っておきたいこと
アヌシー国際アニメーション映画祭とは?
予告を見る限りでは、かなり芸術性に特化した作品であることが伺えた。そしてそんな作品が南米勢として初めてアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされていることが話題となっているが、個人的には本作の賞レースにおける最大の山場はすでに終わっていると思っている。
というのも、アカデミー賞を取るよりアヌシー国際アニメーション映画祭でクリスタル(最高賞)を取ることの方がこの作品にとって重要なことだと感じるからだ。その理由は、アヌシー国際アニメーション映画祭は、カンヌ国際映画祭にあったアニメーション部門を独立させ設立された国際アニメーション映画協会が公認しているものであり、アニメ映画祭としては世界最大規模であることが挙げられる。
この国際アニメーション映画協会が公認しているアニメ映画祭はアヌシーを始め、ザグレブ、オタワ、広島があり、世界四第アニメーション映画祭とされているが、現在ではアヌシーだけが特出した存在となっている。
本作が持つ芸術性を考えれば、土俵としてはアカデミー賞よりアヌシー国際アニメーション映画祭が相応しい。そしてすでに、そこで最高賞を獲得したことがこの作品の価値と立ち位置をよく表していると言える。
ただ、ここでアヌシーの最高賞に続きアカデミー賞も取ることになれば本作の評価もまた大きく前進することとなるのは間違いない。もはやカルト的な名作としての評価は得ているが、アカデミー賞を受賞すれば世界的なアニメの名作として多くの人が触れる作品となるだろう。
しかし、日本人として少し複雑なのがスタジオジブリの新作『思い出のマーニー』も本年度のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされていることだ。この作品はイギリスの作家ジョーン・G・ロビンソンの児童文学を原作に、二人の少女の心の交流を描いたファンタジーである。日本の映画で最も評価されるのがアニメであることは間違いないので、賞レースでも負けてほしくない思いもある。
ただ、このアカデミー賞での二つの作品の顔合わせはおもしろい。本作の監督アレ・アブレウは日本の宮崎駿監督や高畑勲監督からも影響を受けたと語っている。純粋に今現在二つの作品がどう評価されるのかは興味がある。
2016年2月28日にアカデミー賞の授与式が行われるので、そちらの結果も程なくわかるはずだ。
第88回アカデミー賞長編アニメーション部門ノミネート作品
- 『父を探して』
- 『インサイド・ヘッド』
- 『映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム』
- 『思い出のマーニー』
- 『Anomalisa』