2014年・第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞すると、そこからクチコミで広がった評判が、アメリカに渡り大ブレイク。外国映画賞最多15冠に輝いた。
フランスのスキーリゾートにやってきたスウェーデン人家族の状況がある事件をきっかけに一変する様をブラックユーモアを交えて描いたドラマ。崩壊の危機におちいった家族が問題に立ち向かい、新たな絆を結んでいく姿は「現代を描く最高傑作」と絶賛された。これによりリューベン・オストルンド監督は北欧スウェーデンの“超新星”として今最も注目される監督の一人となった。
- 製作:2014年,スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェー合作
- 日本公開:2015年7月4日
- 上映時間:118分
- 原題:『Turist』
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 リューベン・オストルンド監督の鋭い洞察力
- 3.2 観客がより共感できる手法
予告
あらすじ
フランスの高級リゾートにスキー・バカンスにやってきたスウェーデン人一家。スマートなビジネスマンのトマス、美しい妻エバ、愛らしい娘のヴェラと息子のハリー。普段仕事で忙しいトマスは、5日間の休暇で高級リゾートを奮発し、ここぞとばかり家族サービスに精を出していた。しかしバカンス2日目、トマスの「理想の父親像」は脆く崩れ去ってしまう。たっぷりとスキーを楽しみ、陽が輝く絶景のテラスレストランで昼食をとっている最中、いきなり爆発音が鳴り響き、彼らの目の前の斜面で雪崩が発生する。それはスキー場の安全確保のため、人工的に起こした雪崩であった。トマスや他のスキー客たちは、ダイナミックな光景に面白がってカメラを向けるが、エバは何かがおかしいことに気づく。果たして、雪崩は予想外に勢いを増し、テラスめがけて向かってきた。幸い大事には至らなかったが、トマスは家族を置いて先に逃げ出してしまった。
トマスが見せた“期待はずれの行動”は、エバと子供たちを大いにガッカリさせ、家族の空気がぎくしゃくし始める。エバは雪崩が起きた時のトマスの行動を問いただすが、トマスはエバと異なる主張を繰り広げ、次第に夫婦仲にも暗雲が立ちこめてくる。今までの結婚生活に疑問を抱きはじめるエバ、反抗的な態度をみせる子供たち。バカンスは5日間。残された時間の中で、「理想の父親像」を取り戻すべく必死にあがくトマス。はたしてバラバラになってしまった家族の心は再びひとつに戻る事ができるのか。
映画を見る前に知っておきたいこと
リューベン・オストルンド監督の鋭い洞察力
リューベン・オストルンド監督が、なぜこの映画を撮ったのか。インタビューではこんなことを語っている。
「生か死かという状況で、人々は自分の生存が掛った場合は、男性の方が女性に比べて逃げ出して自分を守るという傾向があることも明らかになっています。それらが離婚の原因になることは大いにあり得ます。これらの調査結果をもって、私は、世の既成概念となっている男は妻や家族を守る存在であり危険に直面した時に逃げてはいけないという社会通念を掘り下げてみようと思いました。」
一般的に言われる「男らしさ」とトマスの行動はかけ離れているが、実際はトマスの行動のほうが一般的という調査結果が出ているらしい。この「男らしさ」の崩壊こそが「現代を描く最高傑作」と絶賛された理由だろう。今世界中で「男らしさ」の崩壊が共感されている。
観客がより共感できる手法
「男らしさ」の崩壊というテーマもおもしろいが、それを見せる手法にもリューベン・オストルンド監督のセンスを感じる。
この物語の構成はスキー休暇の時計にそって進んでいく。初日、二日目、三日目─そして五日目に家族は帰国するべく空港にむかう。この五日間という構成は、毎日の日課の繰り返しを確認することになる。毎朝の朝食、就寝前の歯みがき、そこに雪崩の前と後の一家の行動の変化を見ることができるのだ。物語の中で日常を表現することによって、観客は家族の問題により親近感を覚える。
そしてそんな重いテーマを身近に感じさせるだけでなく、リューベン・オストルンド監督の持ち味である優れた観察力による人間描写や、ウィットに富んだ会話、北欧ミステリーを想起させるスリリングな展開などでエンターテイメントとして楽しめるような作品にしている。それでも男性は笑えないかもしれないが、だからこそこの映画はおもしろい。