北欧の隔絶されたとある村で暮らす、ある少女の抗えない秘密と愛の運命を描いたデンマーク産ミステリードラマ。
北欧を代表する監督ラース・フォン・トリアーの『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で、美術アシスタントを務めていたヨナス・アレクサンダー・アーンビーの長編デビュー作となる。
主人公のマリー役に本作がデビュー作となる新人女優ソニア・ズーを抜擢。とても新人とは思えないほどの存在感で才能を証明して見せた。
第67回カンヌ国際映画祭の新人監督を評価するための部門、批評家週間では『ザ・トライブ』『イット・フォローズ』などと共に上映され賞賛を浴びた。
デンマークアカデミー賞では最優秀美術賞と特殊メイク賞を、その他各国の映画祭では、最優秀撮影賞、最優秀監督賞などを受賞している。
- 製作:2016年,デンマーク・フランス合作
- 日本公開:2016年4月16日
- 上映時間:85分
- 原題:『Nar dyrene drommer』
- 映倫区分:R15+
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を見る前に知っておきたいこと
- 3.1 ノルディック・ノワール
- 3.2 ホラーだが、ホラーではない
予告
あらすじ
デンマークの人里離れた海岸沿いの小さな村。マリーはそこで父と病気の母と慎ましく暮らしていた。父は母の病気について一切口を開かない。
村の人たちは車椅子の母を怖がるような様子で、マリーに懐疑的な眼差しをぶつけて来る。しかし、彼女にはそれがなぜなのかは分からなかった。
ある日、マリーは職場でダニエルという少年と出会う。お互いに孤独を抱えている二人は、徐々に惹かれあい恋に落ちる。毎日に幸せな気持ちが差し込んできた矢先、マリーは体に奇妙な変化を感じるようになる。
その感覚は次第に強まり、時々自分の体をコントロール出来なくなっていく。恐怖に駆られたマリーは、自分の体の異変と母の病気について調べ始める。
そこには決して抗えない悲しい秘密が隠されていた・・・。
Sponsored Link
映画を見る前に知っておきたいこと
ノルディック・ノワール
北欧と言えば、充実した社会福祉によって国民が世界一幸福を感じている国として有名だ。柔らかく優しい印象を醸し出す家具、明るく楽しげなファブリック、心温まるおもちゃの様な街並み。
ぐっちゃりとした街に窮屈に暮らす現代の日本人にとって、明るく優しいイメージの強い北欧は憧れの地である。
そんな北欧のイメージとは裏腹に、長い冬の冷たく暗い空気が人々の心に陰鬱な影を落としているのもまた北欧の特徴のひとつである。うつ病が原因で自殺をする人が非常に多く、現地では大きな社会問題になっている。
こうした北欧の暗い一面を芸術に昇華したのが、ノルディック・ノワールと呼ばれるジャンルである。皮肉なことに、この北欧芸術の独特の暗い雰囲気はミステリー小説とその映画化によって世界中に広く知られ、北欧の芸術を特徴付ける一面を持つに至った。
北欧の恐怖は外からやって来るのではなく、人の内に密かに潜む。暗く静かな恐怖の底に、人間同士の複雑な絡みを描き出すのが特徴的だ。
ノルディック・ノワールのミステリーホラーがしばしば「恐ろしくも美しい」と形容されるのは、このような特徴を持っているからだろう。
ホラーだが、ホラーではない
『獣は月夜に夢を見る』はジャンルを大別するとミステリーホラーだと思われるが、その主題はホラーとは程遠い一人の女性の愛の軌跡だ。
ヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督はインタビューで、この作品は詩的でクラシカルな大人向けの映画だと語る。一人の少女が大人に変わっていく姿を、よりリアルに肖像的に描いたのだと。
監督の言葉を受けて改めて考えてみると、この映画の主題はラブストーリーのものであるようにも感じる。
彼女の中に潜む獣とはある特定の人がかかる病気ではなく、コントロール出来ない感情の事を指していると考えれば、誰の心にも獣は潜んでいる。
僕らの中の獣は相手を傷つけ、自分自身を傷つけ、最後には全てを喰らい尽くして孤独の中で息絶える。そして死に逝く最中に、獣は月夜に夢を見るのだ。