この”家族”に全世界、震撼ー
『オール・アバウト・マイ・マザー』(99)『トーク・トゥ・ハー』(02)の鬼才ペドロ・アルモドバルを製作に加え、スペインの俊英パブロ・トラペロ監督が衝撃の実話を映画化する。
1983年アルゼンチン、ちょっと裕福な普通の家族”プッチオ家”。ある日を境に、彼らの周囲で金持ちの家を狙った高額の身代金事件が多発した。全世界を震撼させた事件に繋がる”プッチオ家”の裏の顔とは!?
2014年にアルゼンチン本国で歴史的な大ヒットとなった『人生スイッチ』をオープニング動員記録で抜き、社会現象にまでなった。2015年ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞作品。
Contents
- 1 予告
- 2 あらすじ
- 3
映画を観る前に知っておきたいこと
- 3.1 アルゼンチン国民全員が知る衝撃の実話!
- 3.2 映画好きにはちょっと観てもらいたい映画
- 3.3 実際の事件
予告
あらすじ
1980年代アルゼンチン。それは史上最悪な独裁政治から7年以上が経ち、ようやく民主政治を取り戻した頃……
近所からも慕われる裕福な”プッチオ家”。家長である父アルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)、その妻エピファニア(リリー・ポポヴィッチ)、息子3人、娘2人で家族は幸せに暮らしていた。
© 2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
しかしそんな折、マルビナス戦争(フォークランド紛争)の結果、政府が転覆。政府の情報管理官として働いていたアルキメデスは職を失ってしまう。
ある日、長男アレハンドロ(ピーター・ランサーニ)は、同じラグビーチームの友人に車で家まで送ってもらっていた。そこへ突然、見知らぬ車が割り込んでくる。その車から出てきた銃を持った男たちは二人の頭に布を被せ、二人を拉致する。友人は車のトランクへ、アレハンドロは助手席へ放り込まれた。なぜか運転席の男はアレハンドロを気遣っていた。そこで覆面を取った犯人は、父アルキメデスだった!
翌日、アレハンドロがいつものように練習場へ到着すると、チームメイトが誘拐されたことが既に広まっていた。しかしその中に誰一人アレハンドロを疑う者はいなかった。
© 2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
複雑な心境になるアレハンドロ。犯人が捕まらず不穏な空気が流れる街。”プッチオ家”はいつもと変わらない生活を送る。
夕飯の時間になると、アルキメデスは妻の作った料理を2階の奥にある鍵のかかった部屋へと運ぶ。その部屋は”プッチオ家”特製の監禁部屋だった。
アルキメデスは人質に対し、身代金を用意させるため、家族に手紙を書くよう指示する。その後、多額の身代金受け取りに成功したアルキメデスは、人質を監禁部屋から車のトランクへ運び出す。アレハンドロが見守る中、車は”プッチオ家”を後にした。
© 2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
翌日、アレハンドロはチームメイトから友人が殺害されていたことを知らされる。その夜、父に理由を聞く。人質から逆に脅され、家族を守るため仕方なく殺害したと打ち明けるアルキメデスだった。そして息子に次の仕事を手伝ってほしいと付け加えた。
それから数日後、アレハンドロが経営するサーフショップの開店祝いで”プッチオ家”は町の人々に祝福されていた。その姿は依然と変わることなく仲睦まじく、誰もが羨む光景だった。家族の秘密を知るものは、未だ誰一人いない。
© 2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO
ある日、アレハンドロの店に若い女モニカ(ステファニア・コエッセル)がやってきた。モニカとアレハンドロは互いに惹かれあい、自然と恋人関係になった。店の経営も恋人との関係も順調なアレハンドロは次第に普通の生活を望むようになっていった。次の仕事から抜けることを父に伝えるアレハンドロ。そこから徐々に”プッチオ家”の歯車が狂い始める……
Sponsored Link映画を観る前に知っておきたいこと
アルゼンチン映画史に残るヒットを記録したこの映画は、国民全員が知る衝撃の実話を基にしています。映画としてのおもしろさもさることながら、当時の不安定な社会情勢や政治的背景を掘り下げた、ひとつの時代を証言する映画という側面もあります。
実際の事件についてや、映画の見所に言及しています。個人的には、映画好きにはちょっと観てもらいたいと感じた映画です。
アルゼンチン国民全員が知る衝撃の実話!
パブロ・トラペロ監督が映画の題材に取り上げるほど、人々の関心を集めたこの”プッチオ家”による誘拐事件は、アルゼンチン国民の全員が知るところだという。事件を有名にしたのは、”プッチオ家”の評判とその兇行のギャップによる意外性だろう。
完全に実話である本作がどこかブラック・コメディのように映るのもその意外性の部分からくる。
アルゼンチン国民はこうした危険なユーモアを笑い飛ばせる性質にあるようだ。2014年に爆発的なヒットとなった『人生スイッチ』にも同じような印象があった。
監督は違うが、どちらも『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』の監督ペドロ・アルモドバルが製作を手がけている。
映画好きにはちょっと観てもらいたい映画
本作の興行的な記録は、初動で『人生スイッチ』を上回り、自国で述べ300万人(『人生スイッチ』はトータル400万人)が劇場に足を運んだとされる。
個人的にも、この映画に対する評価は高い。
観客を楽しませるエンターテイメント性に加え、そこには当時のアルゼンチンの社会風刺や、政治的な背景までがある。そしてトラペロ監督の徹底的な取材によってその事件は忠実に再現されているにもかかわらず、作品にはユーモアも見え隠れする。
この映画にある暴力は、どこかあのコーエン兄弟を彷彿とさせる。
一連の事件に加担しながらも矛盾や良心を抱え続ける息子アレハンドロの存在が、父アルキメデスの怪物性をより際立たせる。そして映画でアルキメデスが当時の病んだ社会の象徴として扱われている辺りは、『ノーカントリー』のシガーを連想させた。
実際はトラペロ監督の手腕というよりは、事件の異様さから生まれたこれらの要素かもしれないが、題材を選んだのも、それをまとめたのも監督であることは違いない。
映画好きにはちょっと観てもらいたい映画だ。
辛口で有名な批評家サイトRotten Tomatoesでも現在91%フレッシュをキープしている。
実際の事件
上の写真は当時の見出しや、実際の監禁部屋の生々しい様子を写している。しかし、実際の事件で注目されるのはその兇行ではなく、周囲の人間が誰も気付けなかったという事実や、事件を生み出してしまった社会背景だ。
約2年間に渡って身代金目的の誘拐を続けてきた”プッチオ家”に警察の捜査が及んだ時、女性実業家ネリダ・ボリーニ・デ・プラド(当時58歳)が救出さた。実に36日もの間監禁されていた。
そして警察に取り押さえられた息子アレハンドロは泣きながら「僕は無実だ。何も知らない!」と叫んでいたという。
父親のアルキメデスは元公務員、元外交官、そして公認会計士。母親はマルチネスの公立高校の会計学教師。長女はカトリック系私立学校の美術教師。息子たちは優秀なラグビー選手。それに長男アレハンドロは街で一番のウィンドサーフィンとスキーの店、ホビー・ウィンドのオーナー。そして14歳の末娘は、大好きな母親とメンドーサで休暇を過ごしたばかりだった。
この事件で証言した人の多くは、そんな”プッチオ家”が身代金目的の誘拐犯だとは誰も思わなかった。
“見返りを求めずに、正しいことをせよ”
アルキメデスの書斎には、そう書かれた紙が貼られていた。
映画に記録されているすべては、”プッチオ家”の全員が家族のためを想い行動した結果である。事件に関わったすべての人が当時の不安定な社会情勢の被害者なのかもしれない。
その証拠に、映画の中で事件の捜査を担う役は登場しない。なぜなら当時も”プッチオ家”を捕まえようとした具体的な人物はいなかったからだ。あくまで彼らの犯行を終わらせたのは時代による政治的な変化だった。
こんにちは、
エルグランを見たいのですが 上映予定分かれば 教えて頂ければ うれしいです。
こんにちは
エルグラン見たいのですが 上映予定分かれば教えて頂けますか? DVDの出る予定はありますか?
平井和子さん、コメントありがとうございます。
先日、サイトのデザイン変更に伴いまして、表示崩れを回避するため一部のページで公開日などを削除致しました。僕のサイトにわざわざマニアックな映画を探しに来てくれる方に対して、適切な情報を提供できなかったことを申し訳なく思っております。
日本公開は9月17日からでしたので、現在すでに終了している劇場も多いです。ただ母国アルゼンチンでは2015年に公開された映画ですので、日本の劇場すべてが同時公開というわけではなく、これから上映を開始するところもまだあります。ぜひ、下記のリンクからチェックしてみてください。
『エル・クラン』公開劇場情報
もし最寄りの劇場がない場合は、DVDを探すしかないですね。先方からリリース情報をいただけることもあるのですが、今のところ『エル・クラン』のDVD発売予定は僕にもわかりません。
ただ有名な監督ペドロ・アルモドバルが噛んでいるので、ほぼ間違いなく発売はされると思います。同じく大ヒットとなったアルゼンチン映画『人生スイッチ』(ペドロ・アルモドバル製作)は、すでにDVDがリリースされています。
飯田橋のギンレイホールで昨夜見てきました。ご紹介どおりの面白い作品で、いろいろと考えさせられました。